8.KL

前回:クアラルンプールに到着

 マレーシアの人はクアラルンプールのことをKLと言う。クアラルンプールをどういう抑揚で言ったらいいのか結局解らずじまいだったので、俺もKLKLと言っていた。KLに来るのは2回目で、前回と同じ宿をとったのでもうホーム感がある。前回はヒッチハイクをしようと3人で集合した時だった。結局この3人はその次の朝には分裂するんだけれど。

  マラッカの時もそうだったけれど、街に着いてしまうと途端に書くことが無くなる。KLでも相部屋のパキスタン人と少し喋った後は、ロビーで買ってきた晩飯を食べながら、やり残してきた学校のレポートを書いていた。オーバーツーリズムについてのレポートで、バックパッカーをやりながら書くとなかなか趣深いものがある。結局、次の夜にタイまで行くバスを予約してはじめて、少しそれらしく街を見て回ることができた。まるでこの旅のメインは移動で、出発がクライマックスのような気がしてきた。観光や現地体験はすべて出発のためのお膳立てなんじゃないかとすら思えてきた。

  KLは急ピッチでモダナイズしていた。街全体が渋谷の東側のようだった。ありとあらゆる場所が工事中で、街自体が工事現場の休憩所のようで、どこも土埃で煤けていて活気があった。煤けていない部分は工事を終えてつるつるになっていた。コンクリート護岸にびっしり落書きされたドブ川の橋のたもとの観光案内所は、京都のどの案内所よりもシュッとしていた。

  あと何をしただろう?モスクを見た。駅舎建築を見た。ドリアンアイスクリームを食べた。ドリアンはシンガポールにいる間、食べてみたいと思い続けていたが、まだ叶っていなかった。ドリアンは別に美味しいとは思えなかった。不味いとは思わなかったが、変な味だった。でもこれをアイスクリームと一緒に食べると最悪だった。ドリアンはなんとか完食したけれど、アイスだけはどうしても食べ切れなかった。単に不味いアイスクリームだったんだろうか?

  最後に残った時間を使って、有名なペトロナスツインタワーを見に行った。ツインタワーのふもとはつるっつるな側のKLだった。銀座と同じくらいつるっつるだった。けれども肝心のタワーは真下すぎてよく見えなかったし、かろうじて見えたのは一本だけだった。(どうやらちょうど被る方向から見ていたみたい。)生憎雨も降ってきたので(雨季だから)、諦めてバスターミナルへ向かうことにした。

  KLのバスターミナルはめっちゃくちゃ綺麗だった。新宿や池袋の駅なんかよりずっと綺麗だった。Wi-Fiも繋がって、KLで一番安心感のある場所だった。

  さらばKL。ある街から離れるこの瞬間が一番旅らしい情緒を感じられる。バスターミナルの両替所はシンガポールドルを受け付けてくれなかったので、タイでは無一文からのスタートになりそうだったけれど、今回はちゃんと時間を計算して予約したので真夜中に着く心配だけはなかった。そうやって、次の日の朝焼けを見ながら検問所に並び、午前7時にタイ南端の街、ハジャイに着いた。