7.雨季

 前回のあらすじ: ポートディクソンまで乗せてもらう

 ポートディクソンはリゾート地らしかったが、俺が降ろされたのはあんまりリゾートっぽくない町外れのガソリンスタンドで、その次に止まってくれたのはバイクの兄ちゃんだった。以前、体感80キロくらいでぶっ飛ばすスピードメーターの壊れたカブに拾われて死を覚悟した記憶があるので、バイクには出来るだけ親指を立てないようにしてきたのだけれど、止まってくれたあんまり言葉の通じない人を無下に断るわけにはいかなかった。しかも結局彼は俺を交通手段に困ってる計画性のない人としてしか理解できていなかったらしく(事実でもある)、数キロ先のポートディクソンのバスターミナルに降ろしてくれてしまった。

 もうなんかヒッチハイクも面倒くさくなっきて、バスの出る1時間後までに次の車が捕まらなければ大人しくバスに乗ろうときめたのだけれど、そういう時に限って中途半端な車が捕まるもので、咳止めを買いに行くおじいさんにまたほんの数キロ乗せてもらった。スコールの嫌な予感の中、路上で手を上げていると、薬局が閉まっていたらしいさっきのおじさんがまた次の薬局まで乗せてくれた。ひょっとするとこのまま薬局伝いにクアラルンプールまで行けるかも、と思ったけれど、全くひょっとはせず、結局ターミナルの3つ程先のバス停まできた所で遂に本格的なスコールを食らってしまった。午前中のコストコでのスコールは今回のに比べると霧雨みたいなものだった。今日中にKLにつけなければ怪しいホテルを訪ねてまわる旅が待っていると思うと、ヒッチハイクポリシーはあっという間に覆った。ひとり旅なんて所詮そんなもの。

 そもそも雨季のヒッチハイクが無謀だったのがよく分かったのはバスがあらゆる道が冠水した田舎を走っている時だった。バスは床上浸水していたし、(エンジンとかは大丈夫なんだろうか?)運転手は冠水した道路と脱輪したバンのムービーを撮ってインスタストーリーにアップしていた。途中名前を忘れた町でバスを乗り換える頃には雨はすっかりあがっていて、俺は日没の少しあとになってKLに到着した。東南アジアの大都市は歩行者に優しくない事で有名だけれど、人が沢山いるというだけでものすごく安心感があった。