1.おみくじ

 このあいだ熱海に旅行に行って、ちょっと市街から外れた伊豆山という、山頂に神社が祀られている小さな山の近くに泊まった。海から山頂まで参道の石段が延々と続いているような場所で、脇の斜面の民家には大抵庭があって柑橘類の実がなっていて、シンプルな尾道みたいな場所で冬の小春日和が日本一似合うような場所で(きっと他の季節にも違った魅力があるはずなんやけど)要するにとてもよかった。で、なんでこんな惚気みたいなことを書いているかというと、その石段を登りきった先の神社でおみくじをひいて、結果は特に何ということはない中吉やったんやけど、その中に「失せ物 人の手にある 出にくい」とあったことを思い出して、それでいまこのブログを書き始めたから。

 というのも、ここ数ヶ月使っていた小ぶりのノートが行方不明になっていて、(持ってる人は素直に名乗り出てほしい)そこに二ヶ月前の一人旅の顛末をせっせとメモしていたんです。旅行記を書くのは某TRN-にリクエストされつつめんどくさいわと思って放置していたんだけど、それもメモを見返せばいつでも、と思っていたからで、それが人の手にあるとなれば誰がそれを基に群像新人文学賞を獲ってしまわないとも限らないし、そんなしょーもない冗談を抜きにしても自分自身の記憶力の頼りなさは一番よくわかっているので、とにかく覚えているうちに書かねばと重い腰をあげようとしています。二ヶ月前と言っても実際に出発したのは三ヶ月近く前のことで、そう思うと始動が遅い俺の良くない癖が存分に発揮されていて嫌になる。そういえば前回書いた休学の件、無事できそうです。よかった。それはさておき、実は出発の前日にブログを書いています、もう自分でもほとんど覚えていなかったけれど。それがこちら。
mixologist2828.hatenablog.com

この単位は無事Cという俺らしい成績でなんとか回収できていました。未だにThe 1975のこのアルバムは熱心に聞いています。一つのものにハマるたちなので。

 俺の寮は4人部屋で、このときは俺を含めて5人がいました。俺が入った時に唯一先に入っていたのがベトナム人のAlexで、本名は武といって明らかにそっちのほうが格好いいけれどその格好良さはごく一握りの東アジア人にしかわからないし、解った日本人にしても、何回聞いても発音できるようにはならなかったから、通名を使うのはまあ仕方ないのだろう。Alexは俺よりも5日ほど早く退寮していたけれど、当てにしていた「友達の家」に断られて1週間ほど不法滞在していた。清掃員の気配を感じる度に慌てて荷物を隠して逃げるのは古典的なコメディー映画みたいで面白かったけれど、2日前に新しいタイ人が入ってきたのでついにベッドまで失って、後輩のベトナム人と二人で一つのベッドで寝ていた。(それまで俺以外の3人はみんなベトナム人で、Alexは最年長だった。10歳近く年下だった後輩にしたらいい迷惑やったはず。)そういうルームメイトに、最後だったので近所のスーパーでスーパードライかっぱえびせんを買ってきて、(シンガポールではどこでも日本食が手に入る)ベトナム人たちがマーケットで買ってきたすももも加えて、朝焼けがわかるくらいまで話し込んだ。言葉の違いの話とか、タイの兵役の話とかいろいろあったけど、大部分は忘れてしまった。大事なことはすぐ忘れる。大事なものもすぐになくす。Alexは歴史と言語に造詣が深いので、なにを話していても言葉の成り立ちの話になる。知的な武。タイ人はプーケット出身だったから、タイに寄るつもりだったからプーケットのめぐり方をあれこれ聞いた。でも結局プーケットには寄らなかったな。

f:id:mixologist2828:20190223001444j:plain

その朝の夜明け前。11月30日の記事の括弧のなかにある「お別れビアー」の顛末はこんな感じ。なかなか出発できないな。