平成くん

読書感想文です。「平成くん、さようなら」by古市憲寿。ネタバレテロリストなのでまだの人は読んでからきてください。4年ほど前のスーパーボウルもネタバレツイートやっちゃって怒られたわ、そういえば。今年もペイトリオッツでしたね。

古市さんはジレンマとかで見かけるし、かなりミーハーめの社会学入門書でもお世話になってたので、芥川賞の最終候補まで残ってるのを見て読むしかないだろうと。しかも題材が題材だけに4月までに読まなあかんやつやろうと。あらすじは、下の名前が平成っていう文化人(?立ち位置的には古市本人っぽい)が平成の終わりとともに安楽死するっていう内容が平成くんの恋人目線で語られる。

感想。まず、平成くん本人のキャラ作りはそんなに平成っぽくないかなと思った。古市さん本人のほうがよっぽど平成という時代を体現してる。生活スタイルとか小道具とかはかなり丁寧に「平成感」を出してきているけど、平成くん自身は平成時代を体現してるというよりかは平成を背負わされたひと(の一人)という印象のほうが強い。語り手の愛ちゃんとセットにすれば平成感は出てくるかな、とも思った。(でもこの「平成感」も平成後期感やし、作者も平成って時代を一つや二つの人格に濃縮することに関してはそれなりにあきらめているんちゃうかとも思う。)で、どう捉えていいかわからなくなるのが、(平成を安楽死させるための舞台設定のためか)小説内では安楽死が合法な世界線になっていて、それが中途半端なSF感を出していて、混乱する。え?これは安楽死のはなしやったん?って途中でなるくらい、安楽死比重が大きい。しかも世界線がずれることで現代なのか未来なのかそれともディストピアなのかわからない感じで話が進むし、平成に対してどういう位置づけでこの本を読めばいいのかわからなくなる。「平成を安楽死させる」と言いたいだけならスイスにでも行かせたら良かったんじゃないかな、グローバル化の時代やし。わざわざ世界を変えてまで安楽死に焦点を当てたのは、それがこの小説のキモだったからだと思うんやけど、どういうふうにそうなっているのかはよくわからなかった。で、全体を通して流れているのは語り手の愛ちゃんの平成くんへの愛。ものすごくストレートなネーミングやけれども。でもフラニーとゾーイーみたいに「これは愛の物語です」っていうのとも少し違うような。

ものすごく乱暴に単純にまとめてしまうと、平成時代終わるよ!けったいな時代やったけど好きでした!でもちゃんと別れを告げましょう!という感じ?わりと批判的に聞こえるかもしれない感じで書いちゃったけれど、面白かったです。文章もうまかったと思う(偉そう)。あと、読み終えた時に(乃木希典的な意味でなく)時代とともに死ぬ、っていう感覚がわかるようになったのは驚きでした。これについてはうまく説明できそうにないので、第二弾書くかもしれない。